【医師監修】下腹部痛、出血はもしかして?! 症状、原因、治療法まで詳しく知りたい子宮外妊娠の基礎知識

「子宮外妊娠」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、一体どんな妊娠なのでしょうか?普通の妊娠とはどう違うの?また、妊娠ではなく何かの病気なの?など、さまざまな疑問が浮かぶ「子宮外妊娠」について詳しく解説します。正しい知識を得て、健康的に、そして安心して妊娠、出産に臨みましょう。

子宮外妊娠って?普通の妊娠とどう違うの?

子宮外妊娠は受精卵が卵管か腹腔に着床

正常な妊娠の場合、卵巣から排出された卵子は卵管で精子と出会い、受精します。その後、受精卵は子宮に移動し着床、子宮内で赤ちゃんは育っていきます。しかし、何らかの原因によって子宮以外の場所に着床してしまうのが「子宮外妊娠」。全妊娠の0.5%から1.5%に発生すると言われています。着床する場所のほとんどは卵管内で、まれに腹腔内(腹膜、大網、腸管など)、卵巣、子宮頸管という事例もあります。

妊娠の継続、赤ちゃんは産めるの?

妊娠という言葉から、医学的な処置によって出産が可能なのではないかと思われる方もいるかと思います。しかしながら、子宮外妊娠の場合、妊娠の継続、出産はできません。たいへん残念ですが、赤ちゃんはあきらめ、母体の安全、そして次の妊娠へ向けて適切な治療を受ける必要があります。

子宮外妊娠はどうやって診断できるの?

いつわかるの?症状は?

子宮外妊娠の症状として代表的なものは、出血、腹痛と言われていますが、これらの症状の程度や時期についてはかなり個人差があるようです。妊娠6週頃から始まるという方が多くいる一方で、まったく症状を感じず、妊娠していることにすら気づかないという場合もあります。

妊娠検査薬は陽性?陰性?

子宮外妊娠をしている場合でも妊娠検査薬で陽性が出ます。これは妊娠検査薬が反応するのは妊娠しているかどうかであって、着床した場所は関係ないからです。また、検査薬の反応が濃い、薄いというのもホルモンの分泌量によって変化するもので正常妊娠か子宮外妊娠かを判断することはできません。

つわりはあるの?

つわりは妊娠したことによるホルモンバランスの変化によって起こるもので、妊娠2カ月頃から始まり、2~4カ月頃にピークを迎えます。子宮外妊娠でも正常妊娠と同じようにホルモンバランスが変化しますので、つわりは起こるようです。しかし、個人差のある症状ですし、つわりの有無や程度によって正常妊娠か子宮外妊娠かを判断することはできません。

HCGの値は?

HCG値とは、ヒト絨毛性ゴナドトロピンというホルモンを検出した値です。妊娠した場合にのみ分泌されるホルモンで、尿、血液どちらからでも検査を行うことが可能。妊娠5~6週くらいにはこのホルモン値が1000mlU/mlを超えると言われています。子宮外妊娠であってもこのホルモンは分泌されますので、HCG値は通常妊娠と変わらず検出されるようです。

基礎体温は?

基礎体温には高温期と低温期があり、排卵を境に低温期から高温期へ移行します。妊娠が成立しなかった場合は高温期の後、生理開始とともに、低温期へ。妊娠した場合には高温期が続きます。ホルモンバランスの変化によって起こる基礎体温の高低であるので、子宮外妊娠であっても正常妊娠と変わらず基礎体温は高いままになります。

流産との関係は?

妊娠反応があった後に、出血や腹痛を感じた場合、子宮外妊娠と同じように流産が疑われます。HCG値の低下や基礎体温が低くなるなどの変化がある場合は流産の可能性が高くなりますが、こちらの判断は以下に述べるエコー検査による胎嚢の確認が大切になってきます。

エコーでわかる?

正常に妊娠した場合、超音波(エコー)検査によって妊娠5週後半までにはほぼ100%赤ちゃんを包んでいる袋である胎嚢(たいのう)が確認できます。つわりの症状や基礎体温の変化、HCG値が高いなどの妊娠の兆候があるにも関わらず、この週数になっても胎嚢が確認できない場合に子宮外妊娠であることが強く疑われ、総合的な診断結果から判断されるようです。

早期発見が鍵!子宮外妊娠の2大兆候を見逃さないで!

着床出血や流産とは違う?不正出血

子宮外妊娠の兆候のひとつとして考えられている不正出血ですが、これは受精卵が卵管や子宮頚管、腹腔内など本来着床に適してしない場所に着床しようとするため、その部分の組織が傷つき出血することで起こる症状だと言われています。しかし、正常に子宮に着床した場合でも、子宮内膜がはがれて流れ出ることもあるので判断は難しくなります。出血量や時期についても個人差があること、流産による可能性も高いことから、ただちに受診することが大切です。卵管破裂による大出血など母体の生死に関わる事態になる前に、早期発見、治療を肝に銘じておきましょう。

いつ、どこが痛む?下腹部痛・腰痛

子宮外妊娠の兆候としてもうひとつ考えられているのが下腹部痛や腰痛です。まず、この痛みですが、受精卵が卵管などに着床して成長していく過程で起こる生理痛のようなチクチクとした痛みがあります。しかしこのような痛みは正常妊娠の場合でも起こりますし、子宮外妊娠でも感じないという方もいます。また、時期に関しては妊娠5~6週くらいから痛みを感じたという方が多いようですが、個人差があります。痛む場所は腰全体が重い感じという方や肛門あたりから差し込むような痛みがあるなどさまざまです。さらに卵管内で妊娠した場合など8週~10週頃になって卵管破裂を起こし、大出血とともに死を意識するような激痛を訴えて病院に運ばれるというケースもあるので早めの受診を心がけましょう。

子宮外妊娠の主な理由となりやすい人について

子宮外妊娠を招く主な3大原因

卵管異常

卵管内で卵子と精子が出会い、卵管を通って子宮へと運ばれていくのが正常の妊娠でした。しかしこの卵管が子宮内膜症や性感染症などにより炎症を起こしている場合や過去の開腹手術などにより癒着を起こしてしまっている場合には受精卵が卵管を通って子宮まで移動できずに卵管内で着床してしまうことがあります。

受精卵輸送時の異常

受精卵は卵管内の絨毛の働きによって子宮へと運ばれていきますが、炎症、癒着などの原因で、働きがよくない、体質的に受精卵が卵管内に留まりやすい、また受精卵が腹腔内に飛び出してしまうなど、子宮への輸送がうまくいかないことで子宮外妊娠になってしまうことがあります。

子宮環境の悪化

子宮内避妊具の使用による環境の変化や、過去の人工妊娠中絶手術の処置がうまくいかなかったなどの原因により子宮内が炎症をおこし受精卵が着床するのにふさわしくないなどの子宮内環境が原因で子宮外妊娠になってしまうことがあります。

子宮外妊娠になりやすい6タイプの人

クラミジア感染症にかかったことのある人

日本で感染者の多い性病のひとつで、クラミジアトラコマティスという病原体によって起こる感染症があります。この病原体が子宮頚管から侵入し、卵管まで到達すると炎症を起こし受精卵が卵管内をスムーズに移動することができなくなるため、子宮外妊娠となるケースが多くあります。

腹部手術歴のある人

人工妊娠中絶や帝王切開を含めて過去に腹部手術を受けたことがある人は子宮外妊娠になる可能性があると言われています。これは腹部手術そのものが影響するのではなく、手術によって子宮内に炎症が起きることで正常な着床を妨げるためだと考えられているからです。手術においては炎症を抑える正しい処置が大切であることと、妊娠の際には過去の術歴を正しく医師に伝えることが重要です。

子宮外妊娠をしたことのある人

過去に子宮外妊娠をしたことのある人は、そうでない女性と比べて高い確率で子宮外妊娠になると言われています。特に最初の子宮外妊娠時に卵管を残す温存治療法を選択した場合、次の妊娠時の再発率が高くなるそうです。

IUD(子宮内避妊具)を使用している人

IUDとは子宮内に小さな器具を装着して妊娠を妨げる避妊法です。IUDを使用しているにもかかわらず妊娠した方の約2%~5%が子宮外妊娠になると報告されているようです。あくまでも子宮内の妊娠に対しての避妊具であることを理解し、医師の指示の下、正しく使用することが大切です。

子宮内膜症を患っている人

子宮内膜症を患うと骨盤内に癒着を起こし、卵管が閉鎖することがあります。また卵管が通過していてもその周囲に癒着があれば受精卵を子宮までスムーズに運ぶことができなくなり子宮外妊娠となるケースがあります。

不妊治療を行っている人

体外受精・胚移植では自然妊娠よりも高い確率で子宮外妊娠となるケースがあります。体外受精で受精させて培養した胚は子宮内膜に移植されますが、そのまま着床せずに卵管まで移動して着床してしまうことがあるのです。いずれにせよリスク管理をしっかりと行いながら治療を進めることが欠かせません。

子宮外妊娠の治療はどうするの?

待機療法

子宮外妊娠として着床した受精卵が発育せずに自然と流産したり、組織に吸収されたりするのを待ち、その経過を観察する方法があります。手術をしたり、薬を飲むわけではないので体への負担は最も少ないと言えます。待機療法は妊娠初期に妊娠によって分泌されるホルモンに反応するHCG値を細かく観察し、その後の治療を判断するもので、妊娠週数が進み、そのまま妊娠継続するようだと判断した場合、手術に切り替えることもあります。医師の指示の下、細かい経過観察と状況が急変した際に迅速に対応できることが大切です。

薬物療法

欧米では広く使われている薬物療法は、抗がん剤の投与によって妊娠組織を消失させるものです。全身に投与される場合と部分的に直接投与される場合があります。また、日本ではあまり取り入れられていない治療法で、投与量や投与のタイミングなどその効果も医師の判断にゆだねられる部分が多いようです。薬物療法のメリットとしては卵管や卵巣などを温存し、傷つけることなく治療ができることです。しかし、すべての子宮外妊娠に使用できるわけではないこと、副作用が心配されることなどから、十分に検討し納得した上で選択したい治療法です。

手術

温存手術

体への負担が少ない腹腔鏡下の手術によって妊娠組織だけを除去する温存手術は、卵管や卵巣を残せることから、この先妊娠、出産を希望する女性にとって第一の選択となることが多いようです。しかし、着床した場所が卵管、腹腔内、卵巣、子宮頚管のどの部分なのか、また妊娠週数などによってこの手術が適応できるかどうか判断を待たなければなりません。さらに、子宮外妊娠の再発や絨毛組織が残ってしまうなどのリスクも考慮しましょう。

根治手術

卵管や卵巣など、受精卵が着床した臓器すべてを取り去る手術で、多くは腹腔鏡下、ケースバイケースで開腹による手術が行われます。再発率の高い子宮外妊娠の根治治療としては確実性が高いものですが、その後の妊娠、出産が難しくなることも覚悟しておかなくてはなりません。子宮外妊娠の大部分を占める卵管妊娠の場合、片側を手術で失っても残したもう一方で自然妊娠、出産している人もたくさんいるので、まずは母体の安全を第一に考えましょう。

入院期間

腹腔鏡手術の場合は約5日程度の入院期間が多いようです。また開腹手術となると約10日ほど、自宅安静1カ月というのが目安になります。

費用

子宮外妊娠は健康保険が適用されますので、治療費用は基本的に3割程の自己負担です。また、入院・手術では高額医療制度が適用されます。入院日数、どの病院を選ぶのかなどによって費用は変わってきますので確認しておきましょう。

子宮外妊娠のその後について

再発率

子宮外妊娠を患ったことのある人が再び子宮外妊娠になるケースは高いと言われています。およそ1割近い再発率というデータもあり、治療後もしっかりと経過観察、定期的に受診することなどが欠かせません。

予防法

子宮外妊娠の決定的な原因がはっきりしていないこともあり、確実な予防法というものも確立していません。まずは子宮外妊娠になりやすい要因をできるだけ排除して健康に留意することが重要です。例えば、クラミジア感染症にかかっているならば、きちんと治療する、子宮内膜症なら早めに直す、生理の不順や生理痛の程度なども意識をして、定期検査を受けるなどの日常的なケアが子宮外妊娠の予防にもつながっていると言えるでしょう。

妊娠するためにできること

片側の卵管を残して手術をした場合、その後自然妊娠に至る確率は術前とそれほど変わらないと言われています。また残念ながら両方の卵管を失った場合でも、体外受精などの治療によって妊娠することは可能です。例えば、卵管の詰りを検査しながら、治療もできる卵管造営検査を受けてみるなど、妊娠、出産を希望するのなら自分はどんな方法でかなうのかを調べ、積極的に行動することが大切です。

自分の体に自覚を持つことが大事!正しい理解と早めの受診で前向きに向き合おう

子宮外妊娠は誰にでも起こりうる症状で、早期発見、治療が大切であることがわかっていただけたと思います。日常的に自分の体にしっかり向き合い、ケアしていくことで安全な妊娠、出産へとつながっていくはずです。

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